二月も佳境に入り冬景色っと。うん。本日は某北の国からを想わせるほど雪降る一日なのである。特になんのルートも発生せずおうちに直行すると玄関のまえで高さ二メートルはある雪だるまを目下制作中の母上とエンカウントした……あんたはなにをやっているんだ!?
人間は寒いとどうも幻覚をみてしまうらしい。俺はすかさず「逃げる」のコマンドを選択し、早々に炬燵へ避難するため平然と歩を進める。が、母上のきゃぴ声に足を止めるのであった。
「あらあらっ、お帰りなさい~旭。真昼ちゃんきてるわよん?」
「……ただいま。また真昼ちゃんきてるのか。居間?」
「そうなのよ~ん。お母さん、これからが山場だ~か~ら~、旭がちゃーんとあいてしてあげてねん?」
山場ってまだやるかおい。せっせと続きに没頭する母上は、丸めた雪のボールをふたつ、巨像の胸部とおもわれる部分に細工を施してそいつを結合させようとしているもよう。……ふう。なにもなかった。俺は、なにもみてなどいない。健全な自己暗示を済ませ、れっつ我が家へ。がちゃり。ばったん。
「よっしゃああああおっぱい完成いやっほおおおおう♪」
いやあ、困った幻聴ですねえほんとあははは。さてさて、んなことより真昼ちゃんなのだった。
真昼ちゃんは、数ヶ月前にうちの隣に引っ越してきた月見さんとこのお嬢さんである。活発で好奇心旺盛でおてんばなとてもかわいらしい幼女……だったらいいのだが、少々あれというか、まあその幼獣というか、よくわからん生物だな。うん。
時すでに遅いかもしれんが、俺は足音を殺して居間へと向かう。そろりそろり。ん、妙に静かだな? 居間への侵入、成功。目標――確認! 真昼ちゃんの触覚(ツインテール)が炬燵からぴょっこりでてた。とりあえず罠かもしれんので数分ほど観察してみた。動きなし。目標は沈黙。これより接近戦に入る! 息を止めて近づき、そっとつかんだ炬燵布団をナメクジの如き緩慢な動作で持ち上げていく。おや? おやおや。ふっふっふ、ふがみっつ。あっら~真昼ちゃんてば~寝てるや~~~ん。獣といえど、寝てるときはなんと無防備でおとなしいのでしょうか。目標はやわこそうなほっぺたを上気させよだれを垂らしている。よーし、よし。このまま寝かせておこうじゃないか。
俺は極力音をたてずお茶をのみながら炬燵でのんびりと平和に安堵しているのであった。束の間の休戦気分を味わっていると階段からとたとたと誰かが降りてくる音。なんだ今宵ってばいるんじゃん。
「あ、お兄ちゃんだ。真昼ちゃん、ずっと帰ってくるの待ってたんだよ?」
「あーうん。みたいだね。ちなみにやつなら俺のよこ(側)で寝てるんだぜ?」
「うわぁ! なんか静かだとおもったら……こうしてると天使みたいだねお兄ちゃん!」
「そうだな、俺の妹の今宵。図書委員で眼鏡な今宵。いまだに一日一回は転んでしまう今宵。
やっぱ寝癖ついてんのな今宵。でもな今宵。そんなに胸だけたわわに育てても兄は喜ばんとですよ今宵。あ、今宵リードマンとお呼びしても構いませんかね?」
ごん。
今宵が手に持っていた読みかけの本『魍魎の匣』で俺を殴った。うへへ。
「もう! 今年こそお兄ちゃんにもあげよっかなあっておもってたのにしらないもん!」
なにかごにょごにょ今宵が言ってるがあたまの鈍痛が邪魔して☆がみえるのであった。は!? まさか今宵、おまえ……兄としてはそんな胸もらってもぶらんぶらんさせるだけだぞやめとけ。
思考が安全運転をしはじめて――心なしかほっぺを膨らました妹の、その後ろに立っている存在に気づく。やばい……や、やつが目覚めてらっしゃる! やつは今、寝ぼけまなこでよだれを垂らしたまま、振り子のようにゆっくりと左右に揺れている。俺は唇をはわはわさせる。声は、でない。
「ん? どうしたのお兄ちゃん。後ろ? あっ、真昼ちゃん。おはよう、だよ」
今宵が目標に近づき、垂れたよだれをふきふきする。
「はぁい、綺麗になりましたよー真昼ちゃん。えへへー」
にへら顔してる場合じゃないよ今宵! 学習能力がないのかおまえは!? 真昼ちゃんの振り子のような揺れが∞を描く軌道へと変化する。あ、ああああ! 離れ、ろ。今直ぐ!
「すぐ、楽にしてやる」
真昼ちゃんがそう、小さくつぶやいた。
シュッシュ。小刻みに空気を削ぐ音が聞こえる。な、なんだ!? 真昼ちゃんが今宵の回りを高速で移動している。
「あっ、うっ、あっ、あっ!」
今宵が目を細め、苦痛と快楽の音色を嘔吐。
「あっ、やっ、やめっ、やめてまひっ、んっ、真昼っ、ちゃん!」
あれは……おそろしいことに真昼ちゃんは、今宵のたわわなおっぱいを執拗に狙い、鋭角なフリッカージャブを高速で放ち、サンドバックしているのだ!
「フフフフ……フハハハハ……ハァーッハッハッハッハ!」
真昼ちゃん上機嫌である。
「ほりほり~どうなのわさ、どうなのわさ?」
真昼ちゃんが回転数を上げて純真無垢な表情でシュッシュッとジャブを量産している。このままだと非常に危険だ。一刻も早く止めなくてはいけない。その時、連撃が一瞬ぴたりと止まり膨大な殺気をみせる。
「ボディが、がらあきだぜなのよさ!」
なんとか条件反射でおなかを守ろうと今宵。だがしかし! 手遅れとしりながら俺は叫ぶ。
「罠だ今宵ッ! 腕をさげるんじゃない!」
「遊びは終わりだ! 泣け!叫べ!そして―――」
奥義?が発動し、今宵のたわわな果実をもぎとらんばかりにひっぱる真昼ちゃん。
「いったーーーいやーめーてーとれないからーとーれーなーいーかーらー(泣)」
さすがにそこで真昼ちゃんをひっぺがした。ごめん今宵……不出来な兄でごめんな。でもな、ついこのあいだまで俺の股間がサンドバックにされていたのを、隠れてのぞいてたの、お兄ちゃんしってるから。なんであの時、今宵は、恍惚の表情だったのかな? 逆向き打撃の馬乗りバルカン……兄はおもいだすと、生まれたての小鹿のように足をガクガクさせるのですよ?
「あさひ、あさひ。まひる、まだまだやれたのよさ?」
なんでとめたのって瞳をうるうるさせながら上目遣いで俺をみつめる真昼ちゃん。
「うん。真昼ちゃんがつおいのしってるお。でも加減を覚えないとな? あと、おんなのこを傷つけたら、めーなんよ? 俺はね、真昼ちゃんにはそんな子になってほしくないなあ」
「めー、なのか? あさひがそういうなら、考慮するわさ」
めずらしく素直なのであたまを撫でてみる。手を噛まれました。ううっ。なんなのよもう。
「でもな、まひるな、左腕がうずいてな、封印がとけそうでなあ」
うん、真昼ちゃん発症はやいよーはやいってば。あー世界の半分を隠さないといけないとか時折いってるのはあれかあ。今度、眼帯を試しに渡してみようかしらね。などと考えていると、唐突に真昼ちゃんが、かがんでほしいとねだってきた。はてなんだろう。
彼女のちいさな手が俺のあたまにぽふんとのってきた。なでなで。
「あさひ、よしよしする。あさひ、いつも、あそんでくれて、ありがとうなの」
脈絡がないなあ。真昼ちゃん。でも、うれしいよ真昼ちゃん。ちいさなこにあたまを撫でられて、些細なことに感謝してくれて、俺はね、なんだかとてもうれしいよ。恥ずかしくて正直に伝えれない、駄目なやつだけどさ。
「へへー、ありがたいこってす真昼さま~。インターネットの波に溺れたときはこの旭が浮き輪となりやしょう」
「うむ。いんたぁーねっつ、我の手にはあまるでな」
真昼ちゃんはおうちのなかでひとり、インターネットばかりしているそうだ。俺はそのインターネット畑の、些細なつかまえ役になれるだろうか。
「あさひ、あさひ。こり。どうぞ」
真昼ちゃんがポッケからなにかを取り出し、ぺこりと上手にお辞儀してから俺に手渡した。
拳をあけてみると、チ○ルチョコが一個。
「あさひのこと、ちょこっと好きなのよさ」
真昼ちゃんのフィニッシュブローが俺のガードをぶち破る。
「俺も、真昼ちゃんのこと、ちょこっと大好きだからね。ありがとう」
もぐもぐ。うん。真昼ちゃん。どろっどろに溶けてるし、つぶれてるねこれ。でもおいしいや。
「あー、あー! たべちゃた!? 後生だいじにだいじにしてほしかったのにー! むっきー!」
「ええええ!? あ、や、やめ……ひいいいいいいいい」
真昼ちゃんのあんよが俺の顎先を打ち上げるジェノサイドカッター(改)が炸裂。
その滞空時間が、俺をより強固にするだろう。たぶん。
「月をみるたび思い出せ!」
真昼ちゃんの決め台詞が響き渡る。
ああ、母上。俺は今日、生まれてはじめてバレンタインデーにチョコをもらいました。あはは。
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