きみは、みえないものや、存在そのものを透過させられちまった虚ろな蛹に対し、触れたいとおもったことはあるかな? あるいは、この世界を染める首肯というやつを破壊したい――諸共自爆してやる、と。
突拍子すぎるよね。まあいいや。ところで、容易に悪魔の証明なんていうのはよしてくれないかな。できればだけど、お願いするよ。ああ、怒りを感じるのはね、それに生じる転嫁ではなくて、なぜ「天使の不在」をたやすく証明しようとしないかなんだ。おや、退屈そうだ。それじゃあ仕方ない。
さっさと出ていってくれないかな。これから独り言をつぶやかないといけないんだ。
さて――こほん。
砕け散る、というよりも飛び立つような……見解によって解放と談じられ玩具となるそれは、無邪気な八重歯をみせた。ならば断じよう。ただ我慢ならなかった、抑えつけられる必要など何処にもなかったのだと。
『彼女』は爆ぜたんだ。
そして、それがあまりに見事なものだったから、つい――うっとり――手放すまいとみえもしないパーツを不用意に掻き集め、飛散してしまったであろう何かと似せるように――虚偽をにぎった。ひと欠片でいい、そのなかに望むものがあれば。そうして『わたし』は再構成したのであった。まる。
いったい何がわたしを突き動かしたのか、それを確かめるには、おそらく彼女の名前を呼ばなければならないが、可視をともなうだけにその権限を与えられることはないのだろう……。まあ(↓)、でも(↑)、顕現はこうして奪い盗ったのだから、所与の所在をさぐったところで免罪符でしかないし、何よりもそれ以前に、このわたしが一度として確かな悲嘆というものを体現していたかどうかすら疑わしいではないか。おっと(!)。にしし。余計な語りは騙りっていう言虫に食べられるってお姉ちゃんがいってた気がする。ではでは。うふん。あはん?
えと、ここで唐突だけど肝心なフレーズをノベっておかなければならないの。
「わたしは、彼女のあとから生まれてきた存在である!」
独り言はいつだって空虚だが必然的でもあるわけさ。むふふ。
さて諸君、ぐだぐだとわたしの唾液が飛び散る様を目視しつづけるのは辛かろう。せめて麗しき姉上の密なる花蜜をちょこっと捧げる所存である。ほじほじ。
唯一無二の絶対性があるとしたら、それは彼女に他ならない。語るべき独白があるとすれば、彼女についてなのである。
幼かった頃、彼女は、この世界がまるで可憐な花弁と芳しい香りに包み込まれたかのように、安寧な日々を過ごしていた。のほほんと。それは、正常と呼ばれるであろう経験や数多の星ぼしに染められるまえの清浄さといえばいいか。迎え入れるという工程の際に生じるであろう容認、その初潮をまだ迎えていないなかった彼女は、映すものすべてと戯れた。ある意味、自動的ではあったけど、自覚せずに頬がついゆるんでしまう毎日は、彼女自身を永遠にその場所へ留めるかのような停留を予感させた。
しかし――そんなキャッキャだかウフウだかなんてものは、些細な幻であったのだと、身体が育つその速度を遥かに超えて成長しつづける彼女の抑えきれぬ精神は、唸りをあげて告げることになる。
ある日、彼女は彼女のなかでみつめた外側――セカイの外観に対し、綺麗だと波音もたてず《感動》し、自覚した。ゆえに問う。自然に。限りなど知らず。輪郭もなく、ただ悠悠と。彼女は彼女の感知を超えていく。あどけない時間の流れに首を固定され、手足を引きのばされた成獣がいる。いっそ千切れてしまえばよかったのに……。
彼女は途絶えることのない詰問のなかで永遠のうねりをカタチとして捉えた。それはやがて人形と化していく。彼女の問いは終着へと向け加速し、やがて――
ちいさな手が、確かに引き金を弾いた瞬間、その音は澄みきった残酷として響いた。
最後に――《なぜ疑わない》のかと。
彼女はただ誤魔化さなかった。わたし以外がそれを《ただ誤魔化せなかった》と断ずることは許さない。断じたら、呪うんだからな(★)。
彼女はひとみを閉ざし、演色を拒んだ。彼女はみみを閉ざし、泣声を拒んだ。彼女はくちを閉ざし、味見を拒んだ。そういえば、彼女はよく涎をだらだら垂らしながら、高速に流れる景色は虹のトンネルなのだと、そうつぶやいていた気がする。ふええ。とにかく、わたしが彼女のセカイではなくこの世界へと接触したその日、彼女は――白痴となった。
「わたしの姉は、後天的に目覚めた白痴である!」
独り言は得意気に張られた貧相な胸から高らかに飛びだした。えへん。だって、自慢のお姉ちゃんだもん(♪)。
それからの彼女はというと日々のほとんどを無反応に費やし、たまに動いたかとおもうと眼球内に何かを探索しているのか虚ろな瞳を震動させていた。あれだけ揺れていた彼女の中味はもはや単調すぎる風景に静圧され、放置された空き地のようにただぽかんとしていたから、わたしはただもじもじしながら両膝を抱え、体育座りをしながらみていたのである。ぽつん。
通信は一方的なものに変化したのかもしれないし、重なり合った点からただ単に錯覚を投下していただけなのかもしれません。およよ。
ほどなくして、彼女のわずかな稼動でさえ見受けられなくなった。わたしは焦った(!)。どれくらい焦ったかというと、涙と涎と鼻血を同時に流したあげく失禁までコラボしたくらいだ。彼女の名前を呼びたかったの。でも、それすらできなくて、独り言を空費するしか能がなかったのでした。どちらにしろわたしは、彼女の名前を決して呼んではいけないのだ。そこには約束めいた交感があったと確信する。これは、ひょっとしたら、意地悪ないたずらなのかもしれないけれど、その詠唱が齎す響きは、きっとふたりの遊びを終わらせてしまうから。
そして――長い長い沈黙のあと、月が落ちてきそうな夜半、人形と化した彼女は視線を下げたままぎこちなく動作しはじめた。少し、少し、少しずつ、彼女は外へと逃れていく。そうして膝をついて夜空をただ観測しつづけた。瞬きしないで、じっとだよ。それから彼女は全身をカタカタと小刻みに震動させ、やがて前触もなくぴたりと静止したかとおもうと、右手を上げ、五本の指だけを動かして何もない空間をなぞり、文字を書いた。
それは、わけのわからないポエムだった(☆)。やほい。
でも……綺麗な絵空事だとおもったよ。そう表現することに、なんら不思議はないんだ。
なぜなら観測されること、あるいは見出そうとする眼差しにおいて、問うべき罪はほんのひとときであるが瓦解する定めにあるからなんだ。両者は決してつながらず、互いの点と点との重なりでしかない擬似衝突であるがゆえに、他の介在は決して留まれない。隔絶からきたる切断、つまり思惑と罪は浮遊し次の場所へとただ飛散していくだろう。そこに留まることができるのは、孤独のなかで活動する純粋な感得だけだ。それは、何よりもそう判断するわたしにとって、祝福が不在するなどという罰があってはならないという頑なで無様な意地でもあるけど。
彼女は爆ぜた。最後まで、彼女の通信手段は無線だった。
たったひとりの幼い彼女に巣くう渇望、それは素晴らしい日々やその体感ではない。純粋なまでに素晴らしい想像を結ぶこと、その回想をこそ求めた。やがて、それは、後からやってくる未来より別の人格を呼び覚まし――内観より簒奪されることでその心象において完全な偶像と化した。
これらはわたしという媒体だけに伝達された情報だ。彼女とわたしがつながっていたと錯覚するための、一方的なテレパシー。わたしが判断しえる決定的な事象は、現在の彼女が幼い外観とイノセントな孤独とを供えた神身であること。彼女の人格は永遠にわたしのなかで眠りつづけるのだろう。統合することのない幼さを抱きながら。
ならばわたしは――短き余命をこの夜具に隠し、眠らぬ化身となろう。そうだ、ひきこもろう。お布団に。ここから世界をみてやろう。ぷるぷる。どちらにせよ、彼女の未来を奪ったわたしには、残された罪過をたどるしか術はないのだと、眠らずに呪いに臥せるほかないのだ。わたしは彼女が残していった人形に諦念と名づけてほくそ笑む。
この身体はもはや、儚い病魔に満ち満ちた弱々しい容器だけど、わたしの強行する意志に駆逐されながら、それでも動きだそうとする。ぐうう。おなかが鳴った。
「わたしの姉は、幼き神になったのである!」
独り言は色んな汁にまみれて吐き出された。虚しいね……。でも、これでいいんだ。
わたしは決意を込めて髪型をかえてみる。ちなみに彼女、お姉ちゃんはポニーテールだったよ。わたしはツインテールね。うんしょ……うんしょ。不揃いでどこかみじめっぽい三つ編みが完成! うふふ。今日もがんばったのである。
彼女と重なり合った接点がわたしという月食を生んだ。
だから――具現された『わたし』という人格が『彼女』を心象化する。わたしなりの精一杯の祝福だ。わたしは彼女の名前を呼ばなければならない。たとえそれが罪悪感に突き動かされたものであろうが、たったひとりだけ、たとえ声にだして名前を呼べなくとも、読めるように台詞を書かなければならない。
「ミライお姉ちゃん、元気でね! 大好きだよ。また遊ぼう!」
独り言は虚構のなかで虹色の花をたくさん、たくさん咲かせた。にぱっ。
嗚呼……最後の独り言が空費していく。それはお姉ちゃんがわたしに残していったたったひとつの言葉。
再生するよ。
「ミイラちゃんに、これ、あげるね」
わたしは、いのちをもらったんだ。
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